インフルエンザについてご説明します。
以下の文章は国立感染症研究所より抜粋(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/intro.html)
インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスは、A・B・Cの3型に分けられ、このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、HAには15の亜型が、NAには9つの亜型がある。これらは様々な組み合わせをして、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布しているので、A型インフルエンザウイルスは人畜共通感染症としてとらえられる。そして最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスの運び屋として注目を浴びている。
ウイルスの表面にあるHAとNAは、同一の亜型内でわずかな抗原性を毎年のように変化させるため、A型インフルエンザは巧みにヒトの免疫機構から逃れ、流行し続ける。これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異という。いわばマイナーモデルチェンジである。連続抗原変異によりウイルスの抗原性の変化が大きくなれば、A型インフルエンザ感染を以前に受け、免疫がある人でも、再び別のA型インフルエンザの感染を受けることになる。その抗原性に差があるほど、感染を受けやすく、また発症したときの症状も強くなる。そしてウイルスは生き延びる。
さらにA型は数年から数10年単位、突然別の亜型に取って代わることがある。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異という。インフルエンザウイルスのフルモデルチェンジで、新型インフルエンザウイルスの登場である。人々は新型に対する抗体はないため、大流行となり、インフルエンザウイルスはさらに息をふきかえして生き延びる。
これまでのところでは、1918年に始まったスペインかぜ(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジアかぜ(H2N2)の流行が11年続いた。その後1968年には香港かぜ(H3N2/HongKong)が現われ、ついで1977年ソ連かぜ(H1N1/USSR)が加わり、小変異を続けながら現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっている。
なお1997年には、香港でトリ型のインフルエンザA/H5N1が初めて人から分離され、新型インフルエンザウイルスの出現の可能性として世界中の注目を浴びたが、幸いにも人から人への感染はなく、その後H5の人での感染は見出されていない。しかしすでにH3N2が30年、H1N1が20年連続しているため、いつ新型に置き換わチてもおかしくない状況であり、引き続き警戒が必要である。
疫学・臨床症状
突然に現われるインフルエンザは、狭い地域からより広い地域、県・地方・国を越えて流行があっという間に広がり、学校や仕事を休むものが増えてくる。医療機関では外来患者数の増加とともに、インフルエンザとは断定されないまでも、肺炎、クループ症状、痙攣、心不全、脳炎・脳症などの入院数が、内科、小児科ともに増加してくる。
わが国のインフルエンザは、毎年11月下旬から12月上旬頃に発生が始まり、翌年の1-3月頃にその数が増加、4-5月にかけて減少していくというパターンであるが、流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。
診断・治療の進歩
発熱・頭痛・全身の倦怠感・筋関節痛などが突然現われ、咳・鼻汁などがこれに続き、約1週間で軽快するのが典型的なインフルエンザの症状である。その他のいわゆるかぜ症候群に比べて全身症状が強いのが特徴であるが、正確な診断にはウイルス学的な裏付けが必要である。インフルエンザ流行期にかぜ症状のあるものすべてついて安易に「インフルエンザ」と断定することは、疫学状況を正確に把握し、ワクチンの効果を判定するに当たって誤解を生じかねない。また治療に際しても抗インフルエンザウイルス剤の適切な選択に関係するので、診断にあたっては慎重を要する。
しかし最近は、ベッドサイドもしくは外来などでインフルエンザ抗原を検出するキットが市販されるようになり、健康保険が適用されるようになった。
一方、治療ではインフルエンザウイルスに対する特異的療法として、抗ウイルス剤による治療が挙げられる。抗A型インフルエンザ薬であるアマンタジン(Amantadine)は、A型ウイルスの表面にあるM2蛋白に作用してインフルエンザウイルスの細胞への侵入を阻止し、抗ウイルス作用を発揮する。インフルエンザBに対しては無効である。我が国では、アマンタジンは臨床的に評価された精神活動改善作用から、抗パーキンソン剤あるいは脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善を目的としてこれまで使用されてきたが、1998年12月抗A型インフルエンザ薬として認可された。
インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの作用を阻害することによって、細胞内で感染増殖したウイルスが細胞外に放出されることを抑制し、抗ウイルス作用を発揮するザナミビル(Zanamivir)が、1999年12月に我が国で認可された。
ザナミビルは粉剤で吸入によって投与されるが、同様にノイラミニダーゼ阻害作用を持つプロドラッグであるオセルタミビル(Oseltamivir)は経口薬として認可申請中である。剤型としてシロップ剤なども考慮されている。ザナミビル、オセルタミビルともにA、B両型に対して作用する。
予防方法(予防接種)
現在我が国を含め多くの国で用いられているインフルエンザワクチンは、エーテルでウイルスを処理して発熱物質などとなる脂質成分を除き、免疫に必要なウイルス粒子表面の赤血球凝集素(HA)を密度勾配遠沈法によりHAを回収して主成分とした、HAワクチンといわれる不活化ワクチンである。WHOでは、世界から収集したインフルエンザの流行情報から次のシーズンの流行株を予測し、ワクチン株として適切なものを毎年世界各国にむけて推奨している。
我が国では、毎年インフルエンザシーズンの終わり頃にWHO からの情報および日本国内の流行情報などに基づいて、次シーズンのワクチン製造株が選定され、製造にとりかかる。現在はA型のH3N2とH1N1およびB型の3種のインフルエンザウイルスが、世界中で共通した流行株となっているので、原則としてインフルエンザワクチンはこの3種類の混合ワクチンとなっている。インフルエンザシーズンに、インフルエンザ流行に関連する肺炎死亡数は人口10万人あたり10人を越え(96/97、98/99シーズンの超過死亡数)、そのほとんどが65歳以上の高齢者であった。インフルエンザに関連すると考えられる脳炎・脳症で死亡した子どもたちは、年間100-200人に及ぶ。仕事や学校を休んだり、入院された方は身の回りにも多数おられるであろう。
インフルエンザに対して科学的な予防方法として世界的に認められているものは、現行のインフルエンザHAワクチンである。インフルエンザワクチンには、はしかワクチンのように発病をほぼ確実に阻止するほどの効果は期待できないが、高熱などの症状を軽くし、合併症による入院や死亡を減らすことができる。特に 65歳以上の高齢者や基礎疾患(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)を有する方はインフルエンザが重症化しやすいので、ワクチン接種による予防が勧められる。そのような人の周辺にいる人や、その他にインフルエンザによって具合が悪くなることを防ごうと思う人に対しても、ワクチンは勧められる。
おわりに
死亡率の減少などとともに、次第に「インフルエンザはかぜの一種でたいしたことはない」という認識が我が国では広まってしまったが、決してそうではなく、国内でも地球的規模で見ても、インフルエンザは十分な警戒と理解が必要な疾患である。流行に伴う個人的・社会的損失はたいへん大きい。
また新型インフルエンザウイルスの出現は必至である。これに対する警戒を怠ってはいけないことも強調しておきたい。
高病原性鳥インフルエンザ(http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html)